バラエティに富んだ人間関係をもたらしてくれた大学時代以降、僕は人との距離感を縮めるためにとにかく会話を重ねるようになりました。しゃべりあった分だけお互いのあいだに流れる特有の空気感があり、それに触れる時間が心地よいものでもありました。
しかし、別に僕が特段おしゃべりだというわけではありません。僕は僕自身のことを赤裸々に簡単にさらけ出せるタイプの人間でないことは、自分自身がよくわかっています。つまりは僕は人の話を訊くのが好きなのです。さらに踏み込んで言うなら人の知見を引き出すことが好きなんだと思います。
相手が知見を差し出してくれればこちらも持っている知識は惜しみなく出す。こちらが先に出せば相手も差し出してくれるだろうと思えばやはり惜しみなく先に出す。そうやってお互いが頭の中にプカプカ浮かべていることばを出し合っていると、時々見えない2本の糸がきれいな結び目をキュッとつくったような瞬間がやってくるんです。
自分の口からことばを出しているのに、自分自身がハッとさせられるような感覚。ふんわりとした考えのようなものがことばで言語化された瞬間の出来事。それは意図して自分で定義することができたのではなく、相手との掛け合いによって導き出されたものです。
まるでそれはジャズセッションのような…ことばとことばの掛け合いが思いもよらぬ方向へと連れていってくれることがあるのです。
そのトークセッションの魔力に僕はすっかり魅了されてしまいました。「こんなことについて喋ろうよ」って話し始めたのに、対話のおわり頃には何だか大発見をしたみたいな充実感に包まれることだってあるのです。